12月3日、NTTドコモは「今後の料金戦略に関する発表会」 と題したイベントを開催し、新しい料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表した。
本誌ではすでに速報記事でお伝えし、ほかにも解説記事が掲載されているが、ここでは「ahamo」をどう捉えるか、そこから見えてくる可能性などについて、考えてみよう。
料金プラン? ブランド?
この2年ほど、モバイル業界でもっとも注目された話題と言えば、「5G」でもなければ、新規参入の「楽天」でもなく、話題のスマホ「iPhone」でもない。やはり、この2年間、もっとも多くの人が関心を寄せた話題と言えば、「携帯電話料金の値下げ」をおいて、他にはないだろう。
携帯電話やスマートフォンを使っていくうえで、料金は元々、誰もが気にすることだが、約2年前、当時、官房長官だった菅義偉氏の「携帯電話料金は4割、下げられる余地がある」という発言によって、にわかに注目を集めることになった。本誌でも数多くの記事で解説してきたが、最終的には昨年、電気通信事業法改正という改革まで進むことになった。
ところが、その流れは収まることもなく、今度は首相の座についた菅氏が国会の所信表明演説でも「携帯電話料金の値下げ」をぶち上げ、さらなる料金の低廉化を促す姿勢を示した。
これを受け、監督官庁の責任者でもある武田良太総務大臣は、総務省がまとめた「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」において、MVNO各社への移行やプランの見直しを勧め、接続料の低廉化や移行の円滑化を実現することで、MVNO各社への移行を後押しする姿勢を見せた。
こうした動きに対し、auとソフトバンクはいち早く傘下のサブブランドの「UQモバイル」と「ワイモバイル」で中容量プランの見直しを打ち出し、20GBで4000円前後のプランを相次いで発表してきた。
ところが、武田大臣は定例会見において、 一度は「評価する」としながら、次の会見では「メインブランドでなければ不親切」と発言 したり、KDDIの髙橋誠代表取締役社長がインタビューで「UQモバイルで中容量の値下げ要請に応えていく」と発言したことに対し、「ガッカリした」とコメントするなど、二転三転する説明によって、多くのメディアを困惑させている。
時を同じくして、NTT持株がNTTドコモの完全子会社化を目指し、TOB(株式公開買い付け)を実施し、代表取締役社長を吉澤和弘氏から、NTT持株出身の井伊基之氏に交代することを発表するなど、『電電公社回帰』とも受け取れられ兼ねない動きを見せている。完全子会社化の発表直後から、一部では「社長交代を機に、新プランを発表するのではないか?」とくり返し報じられていた中、いよいよ12月3日、「今後の料金戦略に関する発表会」 と題したイベントを催し、「ahamo(アハモ)」が発表された。
「ahamo」の内容については、すでに本誌でも速報記事などでお伝えしているので、詳しくはそちらを参照していただきたいが、まず、多くのメディアが 意外 だと感じたのが「ahamo」が『新料金プラン』であることだ。
前述のように、主要3社の内、auとソフトバンクはそれぞれ「UQモバイル」と「ワイモバイル」というサブブランドを展開している。
この『サブブランド』という言葉は、今ひとつ定義がはっきりしないが、auやソフトバンクが使い放題や大容量プランなどを軸としたブランドであるのに対し、 UQモバイルとワイモバイルはコスト重視のユーザーをターゲット にしており、KDDIの髙橋社長は「auは5G、UQモバイルは4Gですみ分けていく」とも発言している。こうした状況に対し、以前から業界内では「NTTドコモもサブブランドを展開しないと対抗できないのでは?」と言われていたが、前社長の吉澤氏はインタビューで「ドコモはサブブランドをやらない」という発言をくり返していた。
ところが、いざフタを開けてみると、 「ahamo」はこれまでのNTTドコモのサービスとは一線を画し、『サブブランド』と呼んだ方がしっくりくる内容 だった。
基本コンセプトは20代を中心としたデジタルネイティブな世代に対し、シンプルでオンラインに特化した『新料金プラン』として発表されている。『20GBで月額2980円』という料金体系はかなりのインパクトを持っているが、キャリアメールが利用できなかったり、ファミリー割引の対象外になっていたり、販路もサポートもオンラインを前提にしているなど、これまでの契約形態や料金プランとは明確な違いがある設計となっている。
こうした事業形態は銀行や証券会社など、金融サービスなどにもよく見られる方法だが、多くの場合、メインブランドとは別建てのブランドにされていることが多い。しかし、「ahamo」はあくまでもNTTドコモの『料金プラン』と位置付けられており、NTTドコモの既存プランから移行しても契約する相手は変わらない。手続きも当初はシステムが間に合わないため、MNPと同じような手続きが必要だが、2021年5月からは専用のWebサイトで、簡単な手続きをするだけで移行できるとしている。
ユーザーとしては「料金プラン」なのか、「サブブランド」なのかは、どちらでもいい話と言えそうだが、サービス内容や手続きなどに未確定の部分が非常に多く、とりあえず、現時点では「新料金プランだけど、サブブランドのように、区分されている部分もある」ということを念頭において、移行を検討していく必要がありそうだ。
「ahamo」にぴったりな人は?
20GBで2980円というリーズナブルな料金プランを実現したahamoだが、実際にどんなユーザーに適しているのだろうか。
まず、発表時のプレゼンテーションでは「20代のデジタルネイティブ世代」がターゲットであることを挙げていた。その理由のひとつにNTTドコモは若い世代のユーザー層が弱いため、将来を見据え、そこを強化したいと説明していた。
実は、国内の携帯電話会社のユーザー層は、各社ごとに少しずつ違いがあり、NTTドコモがもっとも年齢層が高く、auが30~40代、ソフトバンクは20~30代あたりが強いとされている。
しかし、現在の20代は10年後に30代、20年後に40代となるため、将来を考えれば、若い世代にもきちんとフォーカスをしていく必要がある。この時期になると、必ず話題になる各社の「学割」もそれを見据えての戦略のひとつだ。
こうした若い世代をターゲットに挙げた「ahamo」だが、別に20代のユーザーに限定しているわけではなく、どの世代でも契約することはできる。むしろ、 興味深いのはこれまでのNTTドコモとは真逆の路線を狙っている 点。それは『シングルユーザー』がターゲットであることだ。
NTTドコモは長らく『家族』を軸に、さまざまな料金やサービスを展開してきた。たとえば、三親等の家族で割り引く「ファミリー割引」などが広く知られているが、料金プランではかつての「シェアパック」のように、家族で複数回線をまとめることで、割安感を打ち出した。ポイントサービスでもauやソフトバンクが回線ごとにアカウントを分けて、付与しているのに対し、dポイントはポイント共有グループで代表者がまとめて受け取る形を基本としている。
しかし、家族でまとめるという契約形態は、ライフステージの変化に伴い、歪みが生じてくることもある。
たとえば、就職や進学などで親元を離れた若い世代のユーザーが実家の親に携帯電話料金をまとめて支払ってもらいながら、本人の利用分は別途、親から請求されて、送金などで支払うようなケースもあるという。ライフステージの考え方にもよるだろうが、プレゼンテーションでも触れられていたように、親元を離れたら、自分の名義で銀行口座を開き、賃貸契約を結び、さまざまなサービスも自分名義で契約するというスタイルが多いことを考えれば、携帯電話サービスも独立した契約を結ぶことが自然だが、実は一人だけで契約する携帯電話サービスは、あまりお得感が感じられないケースが多い。今回の「ahamo」はまさにこうしたユーザーに適したプランと言えるだろう。
また、シングルユーザーという契約形態は、必ずしも若い世代のユーザーばかりではない。
多様な生き方が当たり前となった今日、当然のことながら、ざまざまな世代にシングルユーザーが存在する。これは必ずしも結婚や離別といったものだけでなく、モバイル業界的に言えば、2006年からスタートしたMNPの影響もあり、同居する家族でありながら、契約はバラバラだったり、1人だけ異なる携帯電話会社やMVNO各社を契約するケースも見受けられる。こうした シングルユーザーにとっても「ahamo」は有効な料金プラン と言えそうだ。
オンライン手続きが前提となる背景
「ahamo」を検討するうえで、ひとつ気をつけなければならないのは、 オンラインでの手続きを前提 としている点だろう。
今回のプレゼンテーションではWebページのユーザーインターフェイスの一部などが紹介されたが、少なくとも現時点で、My docomoで簡単な手続きができたり、自分で必要なアプリの設定ができるくらいのスキルが求められる。本誌読者のように、慣れたユーザーであれば、まず、問題は起きないだろうが、自らオンラインで手続きや設定ができず、ドコモショップなどに頼ってきたユーザーには適していない。
そうなると、「ahamo」がオンライン手続きを前提としていることを知らず、「ドコモが安いプランを出したらしい」と、ドコモショップを訪れたユーザーに対し、どのように対応するのかが気になるところだが、この点について、NTTドコモは今のところ、「どのような対応を取るのかを検討中」と答えており、まだ明確なルールが決まっていないことを明らかにした。
基本的にはオンラインでの手続きを貫きたいところだろうが、せっかくの来店者に対し、「受け付けてません」と断ることは、なかなか難しそうだ。おそらく、オンライン手続きのためのパンフレットを渡すなどの対応で、極力、店頭での対応は回避することになりそうだが、当初はドコモショップでスタッフがいっしょにオンライン手続きに付き合わされることがあるかもしれない。
実は、この部分にこそ、現在の料金プランやモバイル業界の歪みが見え隠れしており、「ahamo」が生まれてきた理由のひとつにもなっている。
現在、国内ではコロナ禍を考慮した新しい生活様式に合わせ、さまざまな業務や手続きのデジタル化が推し進められているが、 モバイル業界はデジタルを象徴するサービスでありながら、実はキャリアショップによる手厚いサポートに頼り切ってしまい、なかなかオンライン化、デジタル化の利用が進んでいない 状況にある。
NTTドコモで言えば、My docomoで契約変更の手続きをしたり、ドコモオンラインショップで機種変更もできるが、さまざまなキャンペーンなどを打ち出してもなかなかオンラインサービスの利用は増えないと言われている。筆者はSIMフリー版iPhoneの手続きなどで、何度かドコモショップを訪れたが、周囲のお客さんの手続きや問い合わせの内容が聞こえてくると、「それって、オンラインでできるのに……」「えー、そんなことまでショップに頼るの?」と言いたくなってしまうことも少なくない。
携帯電話サービスの提供には、さまざまなコストがかかるが、実は、こうしたキャリアショップでのサポート体制も大きな負担となっている。
かつて、端末購入時の割引が問題になったとき、「頻繁に機種変更をする人だけが得をしているから不公平だ」という指摘があったが、サポートに目を向けると、実は「頻繁にドコモショップで手続きをしている人はコストがかかっているから不公平だ」と言われかねないほどの負担となっている。最近でこそ、契約事務手数料の有無で、ある程度のバランスが取られているが、スマートフォンではユーザーの利用するアプリの設定なども求められるケースが多いため、NTTドコモでは12月1日からドコモ以外のアプリの初期設定を有料で対応する「アプリ設定サポート」のサービスも導入された。
困ったときに何とかしてくれるキャリアショップは、この数十年、携帯電話が普及していく中で、非常に重要な役割を果たし、業界を支える存在であることは間違いないが、その一方で、いわゆる「レ点商法」とも呼ばれるオプションサービスの加入など、歪な商慣習を生み出してしまった側面もある。「ahamo」はそういった構造を見直す意味からもオンラインでの手続きを前提とした設計になっていると言えそうだ。
シンプルにするための割り切り
今回の「ahamo」は契約手続きなどのオンライン以外にもいくつか「割り切った」サービス仕様で設計されている。
たとえば、「○○@docomo.ne.jp」のドメインを利用した キャリアメールには非対応 となっている。
「今どき、キャリアメールなんて、使わないから」と考えるかもしれないが、発表直後のTwitterなどの反応を見ていると、「キャリアメールはないのか」と戸惑う声も少なくない。
こうした声が聞こえてくる背景には、キャリアメールが他社サービス利用時の認証などに使われているためで、今後、サービス提供会社は認証のしくみをSMSや「+メッセージ」などに切り替えていく必要がある。
NTTドコモもキャリアメールの廃止が前提で考えているわけではなく、「ご要望をうかがいながら、検討したい」とも答えている。幸い、ドコモメールはすでにWebメールに切り替わっているため、月額数百円程度のオプションサービスとして、提供される可能性は十分にありそうだ。
ただし、サービス開始時にオプションサービスとして提供されることが決まっていない場合、「ahamo」に移行すると同時に、メールアドレスなどが失われてしまうため、オプションサービスとして提供するのであれば、早めにアナウンスをして欲しいところだ。
同様に、NTTドコモが提供する「dTV」や「dマガジン」、「DAZN for docomo」などのコンテンツサービスも利用することができるだろう。これらのコンテンツサービスはすでにオープン化が実現しており、dアカウントがあれば、他社ユーザーでも利用できるため、当然のことながら、「ahamo」のユーザーも利用できるわけだ。
また、dポイントについては、少し注意が必要だろう。「ahamo」ユーザー向けにもdアカウントとdポイントが提供されるが、これまで家族などでdポイント共有グループに属していた場合は、その扱いが変わるため、自分が持つdポイントが家族に渡ってしまったり、家族のdポイントを総取りするような事態も考えられる。「ahamo」に移行したとき、どのような扱いになるのかをモデルケース別にしっかりとアナウンスして欲しいところだ。
逆に、今回の「ahamo」によって、新たに展開が期待されるサービスがある。
そのひとつが「eSIM」だ。
現在、国内ではSIMのサービスを一般消費者向けに提供しているのは、IIJmioや楽天モバイルなどに限られているが、NTTドコモ自身が「ahamo」でeSIMサービスを提供したり、そのしくみをMVNO各社に提供するなど、新しい展開が予想される。総務省が示した「アクションプラン」でもやや唐突にeSIMのことが触れられていたが、こうした動きに対する伏線として、挙げられていたのかもしれない。
既存プランとのバランス
「ahamo」は月額2980円で20GBまで利用できる料金プランだが、オンラインを前提とするという条件が付いているものの、既存プランと比較すると、やや料金プランのバランスが悪くなってしまった面もある。
会見後の質疑応答では「既存プランを選ぶ意味がまったく理解できない」といった的外れな質問も飛びだしたが、発表会のプレゼンテーションでは既存プランを見直すことが明言されており、 今月中にも「5Gギガホ」「ギガライト」などの料金プランの改定が発表される予定 だ。
最終的な判断は改定される料金プランを見てからになるが、現時点での料金プランを比較すると、「ahamo」が月額2980円で割引サービスが一切、適用されないのに対し、既存プランは光回線とのセット割、dカード割などの割引、家族での利用による割引が適用される。そのため、従来通り、家族の複数ユーザーが契約しているケースでは、既存プランの方が割安になることも十分に考えられる。20GB以上利用するヘビーユーザーのニーズには、「5Gギガホ」や「ギガホ」で応えていくことになるが、これらも多少の価格調整や条件の変更などが加わる可能性が高い。
少し 判断が難しいのは、昨年、提供を開始した「ギガホ」「ギガライト」よりも前の「カケホーダイ&パケあえる」のシェアパックを契約しているユーザー だろう。すでに新規加入の受付を終了している料金プランだが、新規受付終了から1年半程度しか経っておらず、契約を継続しているユーザーもかなり多い。
もし、このシェアグループのユーザーが「ahamo」に契約を変更すると、パケット通信量をシェアする他のユーザーの契約にも影響を与えてしまう。ただ、シェアパックで適用されていたデータ通信量は10GBや15GB、20GBなどで(100GB以上のウルトラシェアパックもあるが……)、今や割安とは言えないケースも多いため、グループ全体の負担額などを考慮しながら、移行を検討する必要があるだろう。
「ahamo」が業界に与える影響
さて、多くのユーザーに取って、「ahamo」はかなり気になる新料金プランだが、業界全体にはかなり大きなインパクトを与えることになる。
まず、他社については、直接的な対抗サービスであるUQモバイルやワイモバイルが先般発表したばかりの料金プランの見直しを迫られることになる。ただ、UQモバイルもワイモバイルもauショップやソフトバンクショップとの併設店があり、同じようにサポートが受けられるため、コスト的に「ahamo」と同レベルまでの値下げすることは難しいという見方が多い。
現時点で約1000円から1500円程度の差があり、この差額をユーザーがどう評価するかも注目される。「月に1000円程度の差なら、そのままでもいいかな」と考えるユーザーも居そうだが、年額で考えると、1万円以上の差があり、ライフステージの変化と共に、契約を見直すユーザーが増えるかもしれない。
UQモバイルやワイモバイル以上に、大打撃が予想されるのは、新規参入事業者の楽天モバイルとMVNO各社だろう。
まず、楽天モバイルについては、来春、無料期間が終了するため、 「ahamo」がまさに打ってつけの移行先 になる可能性がある。料金は同じ月額2980円でありながら、NTTドコモは国内トップのエリアカバーを持つ。これに対し、楽天モバイルは来春時点で人口カバー率が70%程度に留まり、頼みのauローミングも順次、終了していく状況にある。
いくらデータ通信量が無制限で、エリア展開を前倒ししているとは言え、戦って行くにはかなり厳しい状況と言わざるを得ない。
もし、楽天モバイルが対抗するのであれば、月額1980円程度までに引き下げるか、データ通信量を制限する中容量のプランを出していくなどの策が考えられるが、携帯電話事業への投資コストがかさみ、すでに今年の段階で赤字決算となっているため、どこまで強気の姿勢を保っていられるのかは不透明だ。
MVNO各社については、選ぶ料金プランや利用するデータ通信量次第だが、小容量のユーザーは残るかもしれないものの、中容量以上のユーザーは「ahamo」へ乗り換えられてしまうかもしれない。UQモバイルやワイモバイルが対抗値下げをすれば、そちらへユーザーが流出する懸念もある。特に、かつて主要3社を契約していて、料金節約のため、MVNO各社に移行したユーザーは、すでにMNPを経験済みのため、再びMNPでの移行に躊躇しない可能性が高く、 一気にMVNO市場が縮小してしまうリスク も否定できない。
ただし、MVNO各社については、もともと、NTTドコモのネットワークを利用するサービスが多いため、急激なMVNO市場の縮小は、NTTドコモにとってもマイナス要因になる。同時に、公正な競争環境を担保するには、MVNO各社はNTTドコモをはじめとした主要3社に対し、接続料の見直しを求めていく必要がありそうだ。
こうした競争政策にまつわる部分は、本来、総務省が将来を見越し、早急に手を打つべき課題だが、接続料は検討会で議論を重ねている段階であり、すぐに対応できるようには見えない。これに加え、会見の度にコメントが迷走している総務大臣を筆頭に、 継ぎ接ぎの政策ばかりを展開する現在の総務省の体制で、今後、きちんと対応していけるかどうかは、非常に疑問が残る 。ひとつ間違えば、半年後にはMVNO事業から撤退するところが続出してもおかしくないのだが……。これを機に、通信行政は総務省から切り離し、デジタル庁などと共に、情報通信分野を扱う専門の省庁を設立することを検討して欲しいくらいだが、その話はまた別の機会に触れよう。
そして、今回の「ahamo」の展開は、業界の構造自体にも大きなインパクトを与えることになるかもしれない。それは前述のキャリアショップなどの形で、この業界の発展を支えてきた販売代理店などの存在だ。
これはある業界関係者が話していたことだが、「月額2980円で20GBが使え、面倒な割引やオプションなし」という『料金プラン』は、ユーザーにとってわかりやすいだけでなく、おそらくどの販売店にとっても『売りやすいプラン』でもある。しかし、「ahamo」は基本的にオンライン専売のため、自ら売ることはできない。仮に、販売できたとしても契約に伴う販売手数料は、もともと設計に含まれていないうえ、人件費などがかかるため、利益はほぼ生まれない。販売代理店というしくみに賛否があることは確かだが、1億8000万を超えるところまで国内のモバイル業界の成長を助けてきた存在を『無』にしてしまうようなインパクトを持っているわけだ。
また、業界内の別の知人が以前、ちょっと面白い視点の話をしていたので、それにも触れておこう。
たとえば、今年のiPhone 12シリーズは5Gに対応しているが、アップルストアなどでSIMフリー版を購入した場合、各携帯電話会社で別途、契約を5Gに切り替える手続きをしなければならない。iPhone 12シリーズのレビューでも説明したように、この契約変更の手続きは、auが電話(お客さまサポート)、NTTドコモとソフトバンクのキャリアショップでの対応が必須になるが、この手続きにはいずれも契約事務手数料が発生し、翌月の携帯電話料金といっしょに請求される。
モバイル業界的にはごく当たり前の話なのだが、知人は「本来、お金を支払って、サービスを利用しているのは、我々なのに、なぜ、手数料を支払う必要があるのか?」「クレジットカードで商品を買っても手続きをしても消費者が手数料を負担することはないのに……」(再発行や暗証番号などの手続きは有料のケースもあるが……)と指摘していた。確かに、言われてみれば一理ある話で、一般消費者が利用するサービスには、仮に手数料がかかってもそれが包含された料金や価格が設定されているものが多い。
今回の「ahamo」が打ち出したオンラインへの特化やシンプルなプラン構成は、これまでのモバイル業界のしがらみやビジネス慣習を断ちきり、新しいモバイルビジネスの商慣習をはじめるきっかけになるのかもしれない。まだ全貌が見えていない『料金プラン』だが、今後、NTTドコモにていねいな説明を求めつつ、ライバル各社の対抗策、業界全体の動向などをしっかりと見極めていくようにしたい。
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December 08, 2020 at 04:00AM
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