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コロナ禍でも解雇は簡単にできず 満たされるべき4つの要件 - livedoor


深刻な事態だが安易な解雇が許されてよいことにはならない(写真:kieferpix/iStock)

新型コロナウイルス感染防止のための自粛によって経済的に大打撃を受けている企業が膨れ上がる中、それを理由とした業績悪化によって労働者に対する解雇を行う企業が増えていると指摘されている。

企業経営が苦しくなっている中で、人員整理、リストラを考える企業も増えているだろうが、このような新型コロナウイルスの感染拡大、感染防止による自粛活動などによる業績悪化を理由として、解雇を行うことは法的に許されるのか。

労働契約、解雇の基本に立ち返って考えたい。

解雇とはそもそも何か

解雇は、使用者が労働契約を一方的に解約し、労働者を辞めさせる行為である。

民法上は、雇用契約の解約は使用者も労働者も自由にすることができると定められており、したがって、使用者による解雇も自由とされている(解雇の自由)。

しかし、解雇は、それを言い渡される労働者にとっては生活の糧を失い、路頭に迷ってしまいかねない事態を引き起こす。

労働法は、労働契約には民法が想定する対等な契約当事者の関係が当てはまらず、使用者と労働者には圧倒的な力の差があることを直視し、労働者保護のために一定の規制をかけることを目的としている。

そこで、歴史的には、裁判所の判例を通じて使用者の解雇の自由に制限を加える動きが示され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではない解雇は権利を濫用したものとして無効であるというルール(法理)を確立し(解雇権濫用法理と呼ばれる)、その後、2003年に法律(労働基準法)の条文として規定されることになった。

現在は、労働契約法16条が「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定め解雇権濫用法理を明文化している。

このように労働契約法が使用者の解雇を制限した趣旨は、労働者は、「解雇=意に反する雇用喪失」により、生計を維持し継続的な収入を得る場を失うという経済的不利益のみならず、労働による人格の発現、発展や幸福追求の場を失い、社会的評価が低下するという人格的不利益などの回復が容易でない大きな不利益を被ることに鑑み、労働者の雇用保障、不利益回避の観点から契約法上の原則を労働者保護のために修正した点にある。

新型コロナウイルスによる経営不振を理由とする解雇は労働者には何ら解雇に値するような非違行為等はないことから、このような解雇は、整理解雇と呼ばれている。

整理解雇は、労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、もっぱら使用者の経営上の理由による解雇であることから通常の解雇以上に厳しく判断されなければならない。

整理解雇の4要件

そこで、判例上、以下の4要件(整理解雇4要件)が充足されなければ権利を濫用したものとして無効になると考えられている。

?人員削減の必要性の存在
?解雇回避努力を尽くしたこと
?人選の合理性
?手続の相当性(労働組合・当事者との協議)

整理解雇4要件の基本的な考え方は、整理解雇が企業の経営上、最終的な手段としてなされたものであるのか否かという観点から有効性を判断しようという点にある。

それでは、今回の新型コロナウイルスによる企業の業績悪化を理由とする解雇はこれらの要件を満たすと言えるのか。

?  人員削減の必要性の存在

整理解雇は、前述のとおり、労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではないこと、整理解雇によって労働者の被る経済的、精神的打撃は著しいものであることから、整理解雇は、解雇を正当化するに値する人員削減をする必要性がなければならない。

どの程度の経営上の必要性があればこの要件を満たすかについては、さまざまな見解があるが、整理解雇の場合、労働者に非がないこと、解雇によって被害を受ける労働者の権利を重視するのであれば「当該解雇を行わなければ企業の維持存続が危殆に瀕する程度に差し迫った必要性がある」場合でなければならないと考えるべきである(長崎地裁大村支部判決昭和50年12月24日労働判例242号14頁)。

このように考えた場合、今回の新型コロナウイルスによる企業の業績悪化が直ちに人員削減の必要性の要件を充足するかは慎重な検討が必要である。

もちろん、ケースバイケースであり一概には言えないが、現在、新型コロナウイルスによる業績悪化を契機に整理解雇を検討していたり、実際に整理解雇を行ったりした企業の全部が直ちに労働者を解雇しなければ企業の維持存続が危殆に瀕するほどにまで業績が悪化している企業ではないと思われる。

筆者が、実際に相談を受けているケースの中には、新型コロナウイルスの問題に便乗する形で労働者を解雇するケースもあり慎重な検討が必要である。

?  解雇回避努力を尽くしたこと

使用者は、人員削減をする必要性がある場合においても、解雇が労働者の雇用を喪失させる最後の手段である以上、配転、出向、一時帰休、希望退職の募集などのほかの手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務を負っており、ほかの手段を試みずにいきなり整理解雇の手段に出た場合は、解雇回避努力義務を尽くさなかった解雇として解雇権の濫用となる。

解雇回避手段は、いろいろ考えられるが、最低限、希望退職の募集はする必要があるといわれている。

よく見られる整理解雇のケースでは、希望退職の募集などほかの手段が行われた形跡はまったく見られないで解雇をいきなりしている例も多く注意が必要である。

?  人選の合理性

使用者は、労働者の整理解雇がやむなしと認められる場合にも、被解雇者の選定については、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行わなければならない。

この点についても、明確な基準が示されている場合は、めったになく、経営者に目をつけられた労働者や経営者の好みなどで対象者が選択されているとしか思えないケースもままみられる。

?  手続の相当性(労働組合・当事者との協議)

使用者は、労働者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき納得を得るための説明を行い、当該労働者、労働組合と誠意をもって協議すべき信義則上の義務があり、かかる手続きを履践せずになされた整理解雇は、手続の相当性を欠くものとして無効である。

筆者の経験上、のちに解雇が裁判などで争われるようなケースでは、このような手続きをきちんと踏んだうえで整理解雇を行っている会社はまれである。

解雇や雇い止めは簡単にはできない

以上のとおり、解雇、特に整理解雇は法律上簡単にはできないことになっているが、多くの企業においては、割と簡単に解雇が行われているのが実際でもある。

よくある誤解として「解雇予告手当として1カ月分の給料を支払えば解雇ができる」と考えている使用者がしばしばいるが、解雇予告手当を支払ったとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではない解雇は権利を濫用したものとして無効になるのであるから解雇予告手当を支払っただけでは解雇は正当化されない。

労働契約が、1年とか6カ月とか期間定めのある労働契約(有期労働契約)の場合、期間満了後に契約を打ち切る「雇い止め」という形で雇用が打ち切られることも、今回の新型コロナウイルスの影響で増加しているといわれている。

しかし、雇い止めに関しても、解雇と同様、自由にできるというわけでもない。

民法上は、契約期間が満了すれば労働契約は当然に終了し、契約を更新するかどうかは当事者の自由に委ねられているが、労働契約法では一定の制限が加えられている。

労働契約法19条は、以下のとおり雇い止め法理を明文化している。

【労働契約法19条】
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

このうち「有期労働契約の期間満了時に労働者が契約更新を期待することについて合理的理由が認められる」(労働契約法19条2号)か否かは、雇用の臨時性・常用性(仕事の内容が臨時的・補助的か、基幹的か)、更新の回数、雇用の通算期間、契約管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等を総合考慮して判断される(平成24年基発0810第2号)。

要するに、正社員(期間の定めのない労働契約)の解雇の場合とは法律上の取り扱いが異なるが、契約時の事情や反復更新された経緯などによっては、解雇と同様に客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない雇い止めは許されないことになっている。

新型コロナウイルスを理由にしても

新型コロナウイルスによる企業経営上の業績悪化は確かに深刻な事態である。

しかし、だからといって安易な解雇が許されてよいことにはならない。


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厚生労働省も、新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)の中で

「今回の新型コロナウイルス感染症による影響への対応に当たっては、雇用調整助成金(本Q&Aの「3 雇用調整助成金の特例措置」をご参照ください)など、政府の支援策を活用いただき、できる限り労働者の雇用の維持に努めていただくようお願いします」

と、雇用調整助成金などを活用しながら可能な限り雇用の維持に努めるよう要請しているところである。

新型コロナウイルスの影響を理由とする解雇、雇い止めなどの労使紛争は、今後、増加することは必至である。

新型コロナウイルスの影響による業績悪化については、経営側に責任はまったくないことから、雇用を維持する責任を使用者側にのみ負担させることも相当でなく、政府の支援策のさらなる拡充が必須である。

そのうえで新型コロナウイルスの影響を理由とする安易な解雇、雇い止めがなされないように注視していく必要がある。

もし、労働者が、新型コロナウイルスの影響によって解雇や雇い止めにされてしまった場合は、簡単に諦めることなく労働組合(ユニオン)に相談、加入し団体交渉を通じて解雇の有効性を争うなどの対応ができることも併せて伝えておきたい。

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