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原油が驚異のマイナス価格、次に危ないのは不動産? - ITmedia

 前回の連載に続き、今回も原油マーケットが市場参加者の話題をさらうこととなった。米国で取引されている、WTI原油先物の5月限価格の終値は、史上初めて“マイナス”37.63ドルで引けた。この原油先物の購入者は、投資金額を全て失っただけでなく、1バレルあたり37.63ドルを追加で支払うということになる。

 ただし、注意しておくべきは、今回のマイナス価格はあくまで「WTI原油先物」だけで発生したものであり、全世界の原油の価値が突如マイナスになったというわけではない。現に欧州のブレント原油先物の価格は、5月限分を9.06ドルで引けている。同じ原油であるにもかかわらず、なぜ米国のWTI原油先物だけがマイナスになってしまったのだろうか。

 今回は、原油先物の特徴やマイナスになった背景を確認した上で、次のマイナス価格が危ぶまれる資産クラスは何かを検討していきたい。

保管コストが原油価値を上回る

 原油先物は、「商品先物」の一つだ。商品先物は、日経225先物などに代表される「指数先物」と異なり、現物の受け渡しを伴う「受渡決済」という決済方式がある。今回のWTI原油先物も、決済時には本物の原油が受渡決済されるものだ。

 原油先物は、石油会社や商社といった実需による取引参加者も多い。このような取引参加者に原油の受け渡しを行うためには、貯蔵設備を用意して、決済まで原油を保管する必要がある。

 貯蔵タンクの運用にはそれなりの費用がかかるため、受け渡しまでに長い時間がかかるほど、保管コストが膨大になるという特徴がある。つまり、決済期限が先になればなるほど、保管コストを加味した、高い先物価格が提示される傾向がある。

 図表は、WTI原油先物の価格を限月(受け渡しの日付)ごとに示したグラフである。22日現在の20年6月限が11.57ドルであるのに対して、31年2月限は53.19ドルとなっている。

先物価格は、原油の保管コストが価格に影響する オコスモ作成 原油の保管コストが価格に影響する

 このように、未来ほど価格が高い状態のグラフを「コンタンゴ」という。決済期限が遠くなるほど現物の保管コストは高まる。そのため、決済期限が遠いほど、先物価格は高くなる傾向にある。

 なお、コンタンゴは、各種商品の特性や短期的な需給によって崩れる場合もある。例えば、穀物は原油と比較すると相当低コストで保管できる。そのため、決済期限が遠い穀物先物であれば価格が高くなるとは限らない。現に、とうもろこし先物は、22年7月限の価格よりも、22年8月以降の価格の方が低くなっている。このような現象を「バックワーデーション」という。

穀物ではコンタンゴが崩れやすい オコスモ作成 穀物ではコンタンゴが崩れやすい

 原油先物が美しいコンタンゴとなっていることから考えれば、「原油の保管コストは高い」という特徴が先物価格から分かる。原油の買い手は、需要急減によって原油がダブついてしまい、これを自前で保管したり処分したりする費用と、売ってしまう費用を比較検討したのであろう。その結果、自前で保管・処分するよりも、保管原油の新たな買い手に37.63ドルを支払って原油を引き取ってもらう方が合理的と、市場参加者に判断された形となる。

 投機的な動きこそあるが、本質的な原油の価値を上回るコストの発生によって、WTI原油先物価格がマイナスになったということができるだろう。

立地も「マイナス価格」に影響?

 そうであるとしても、なぜ米国のWTI原油だけがマイナスになってしまったのだろうか。これは、原油の受け渡し場所の立地も関係している。図表では、世界でも大きなシェアを誇る各種原油の受渡場所を示した。

WTI原油はタンカー乗付不可な陸地で受け渡し オコスモ作成 WTI原油はタンカー乗付不可な陸地で受け渡し

 ブレント原油や中東の原油では、ほとんどが海上や沿岸部での受け渡しが可能である反面、WTI原油は、テキサス湾で採掘された原油を、内陸部のオクラホマ州クッシングで貯蔵し、受け渡しを行っている。もともとWTI原油は米国の内需向けに用意されているもので、テキサス沿岸で採掘された原油はパイプラインで内陸に輸送されるのだ。

 アメリカのWTI原油先物の価格がマイナスになった背景の一つとしては、海上に受渡拠点がないことにあるだろう。沿岸部に受渡場所を有する他地域では、原油を大量に輸送でき、外国のタンカー船が容易に乗りつけられる。仮にブレント原油のように、沿岸で受け渡される先物価格がマイナスになると、タンカーで乗り付けて受け渡しを受ければ、原油だけでなく、お金を受け取ることができてしまう。そうした理由で、いまの段階では沿岸部の貯蔵施設がまだオーバーフローしておらず、先物価格の下支えに貢献していると考えられる。

 そうはいっても、世界的な原油の需要減退が長期化すれば、他地域についても原油がマイナス価格となる可能性も否定できない。

原油の次は「マイナス不動産」に警戒?

 今回は原油先物がマイナス価格となって注目を集めたが、原油以外にもマイナス価格増加に注意すべき資産があると筆者は考える。それは不動産だ。

 上記で検討した通り、原油価格マイナスの背景には、原油の価値を上回る保管コストがある。この構図によく似た事例が多いのが不動産だ。物件の価値よりも、物件を維持したり、解体したりするために必要な費用が上回ることがあれば、不動産もマイナスで取引される。

 実は、不動産価格がマイナスになることは、今ではそれほど珍しくなくなってきた。バブル期に人気を博した伊豆等の別荘地では、別荘の値段をマイナスにしても買い手がなかなか付かない例もあるようだ。

 2018年末には、地方公共団体保有の土地が初めてマイナス価格で払い下げられた。これは埼玉県深谷市の事例で、旧市立中瀬小学校の体育館が建設されていた1500平方メートルの土地がマイナス795万円で落札されたものである。

 当時は、市から特定個人への利益供与ではないかという疑念の声も一部ささやかれた。しかし、市は土地を利用開始するために、体育館を解体する費用を価格に組み入れた。その結果、市は推定の解体費用込みで算出した当該土地の価格をマイナス1340万6000円とし、入札を募ったのだ。その結果、市の試算に545万6000円上乗せしたマイナス795万円で落札されたのだ。

 資産といえばプラスのイメージがつきがちだが、将来的に発生する出費やキャッシュフローを考えた取り引きが必要だ。一見価値があるものも、トータルで見た収支を最大化する上では、お金を払ってでも手放した方が賢明な場合もあるということだ。

 コロナ禍の影響が長期化してしまえば、個人経営の店舗や旅館を中心に多くの店舗が廃業を余儀なくされてしまいかねない。その結果、不動産についてマイナス価格取引が増加する可能性があるといえるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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