KNNポール神田です。
官房長官である菅義偉氏が2020年9月2日、自民党総裁選に立候補を宣言した。その中でも言及されたのが『携帯料金値下げ』だ。第一次安倍内閣時代での総務相の経験もあり、携帯電話料金値下げは菅氏の悲願でもあった…。
■2018年からの総務省リードによる携帯料金値下げキャンペーンの成果は?
総務省は、2018年の、管官房長官の『携帯電話料金は4割程度引き下げる余地がある』の発言に対応して、大手とMVNO(仮想移動体通信事業者)の競争を促進させてきた。また、2019年10月には『電気通信事業法改正』によって、『2年縛り』や『端末購入補助』が禁止とされ、通信料と端末代を明確に分離した『分離プラン』などが生まれた…まもなく1年となる。しかし、結果はどうだろうか?
2年縛りの違約金は1000円以下となったが、大手携帯電話3社からの移動はほとんど促進されず、各社の営業努力で、営業利益は20%を維持している。そう、つまり、総務省らが打ち出す『携帯料金値下げキャンペーン』はことごとく失敗しているのである。
総務省が規制を強める度に、日本の携帯大手3社のNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは、手を変え、品を変え、規制に対応した、別のプランや奇策を次々と登場させてきた。シンプルで乗り換えやすくなるキャンペーンや報奨金のプランがなくなり、割引率が低くなり、乗り換えると損をするという逆転現象を作り、結果として古い携帯を使い続けるという傾向が現れている。さらに子会社のMVNO(仮想移動体通信事業者)である『ワイモバイル』や『UQモバイル』等のサブブランドによって、顧客の流出をグループ内に留めさせることもできる。
根本的に、総務省リードによる規制の原点の『仮説』そのものがまちがっているのではないだろうか?また、今回は、菅義偉氏の政策でも『携帯料金値下げ』を掲げ、『公共の事業社は営業利益10%以上は還元』というが、営業利益なんて数字はいくらでも『固定費』で調整できてしまうのだ。たとえば、新・政府の方針で営業利益を10%以下に調整しなければならないというエクスキューズがあれば株主にも方弁が効いてしまうだろう。
たとえ、菅義偉氏が総理になって、携帯電話料金値下げに踏み込んだとしても、仮説や前提条件が違いすぎると『民業圧迫』になりかねない。むしろ、自動車保険のビジネスモデルのような長期ユーザーに還元する手法で提案してはどうだろうか? 解約する手間やコストをさげるのではなく、長く使っているユーザーに対してベネフィットを増やした方がユーザーにも受け入れやすいはずだ。
■自動車保険のビジネスモデルを参考にする
『自動車保険』は、無事故で長く加入していればいるほど、料金は等級もあがり低廉化していく。そう、一度も事故をおこさず、他社へ乗り換えをしないユーザーにこそ還元していくというビジネスプランになっている。同時に乗り換えないユーザーほどサブスクリプションモデルとしては最高の金のなる木となるのだ。さらに無事故で加入している人には変動費がほとんどかからないという黄金のビジネスモデルだ。
一方、携帯電話は、新規ユーザーの獲得コストが高くなり、ホイホイ乗り換える『新規』の人ほど得をするプラン構成だ。そもそも『MNP(モバイルナンバーポータビリティ)(2006年10月24日から実施)』制度そのものが、従来の電話番号のまま乗り換えやすい政策と大規模な『MNPキャッシュバックキャンペーン』を生んでしまった要因でもある。政府が動けば動くほど、その施策を活用してのキャンペーンが繰り広げられる『いたちごっこ』で強固な携帯通信会社の3社体制が生まれてしまったのではないだろうか?。つまり、上位3社という寡占構造が最も都合がよいのだ。
■通信会社トップ三社の『BIG3』が盤石な理由
古くはロックフェーラーの『スタンダード・オイル』が、独占禁止法(シャーマン法)で『セブンシスターズ』と呼ばれる34社に分割された後の、『エクソンモービル』、『ロイヤル・ダッチ・シェル』『BP』の3社。
アメリカの自動車メーカー、『ゼネラルモーターズ(GM)』『フォード』『クライスラー』の3社。
アメリカのテレビ局、『NBC』『CBS』『ABC』の3社
アメリカの携帯電話会社も『AT&T』が、『ベビーベル』と呼ばれる7社に分割されるが、『AT&T』、『ベライゾン』、そして、『ソフトバングG』から『スプリント』を買収した『T-Mobile』でまたもやBIG3に舞い戻った。
なぜ?そのような3社による寡占が安定するのかというのには理由がある。
1社では独占事業会社として、『独占禁止法』によって解体および分割が迫られてしまう。MicrosoftがAppleを市場から殺さなかったのはこのためだ。2社では競争が常に激化して50%以上のシェアを争い、永遠に終わらない骨肉の争いとなる市場となってしまう。しかし3社による寡占(かせん)市場であれば、1社あたり33.3%前後の市場を持つことができ、無駄な競争をせずに同等のサービスを提供してさえいれば経営的に安定できる。株式でも33.33%(1/3)以上の株を所有していると、経営上の拒否権が発生することができる(株主総会の特別決議は2/3以上の議決権が必要)。
日本の携帯電話の三社が似たりよったりのサービスで、いつも代わり映えしないサービスで差別化した競争しないのが、一番経営的に安定するからだ。いくら、総務省や菅官房長官らが携帯電話料金を下げようとしても、下がらないのはこのBIG3による三者寡占市場の構造が強いからだ。
■『楽天モバイル』らのような第4勢力に期待
そこでこのBIG3を破るには、第4、第5の勢力がシェアを伸ばし、4社間で25%のシェアづつとなれば、また競争が激化してくる。
サントリーが参入する前の日本のビール会社は、『キリン』、『大日本麦酒(ダイニッポンビール)』の2社。1941年に『大日本麦酒』が『アサヒ』と『サッポロ』に分割で3社体制であった。1963年にウイスキーメーカーであった『サントリー』がBIG3の寡占市場に参入し、赤字垂れ流しの20年をかけて、80年代に『モルツ』のヒットでBIG4の現在のシェアにようやく追いついた。
日本の携帯電話会社も、『日本電信電話公社』から民営化(1988年)されたNTTの携帯電話子会社の『NTTドコモ』と、『日本電信電話公社』から分身した『KDD(国際電信電話)』や『通信自由化』で発足された京セラの『第二電電(DDI)』トヨタの『日本移動通信(IDO)』らが合併し、2000年に『KDDI』となった。『ソフトバンク』は、2001年に『日本テレコム』を買収した『ボーダフォン』を、2006年に買収し市場に参入。2008年7月、『iPhone3G』の国内独占販売を起点にシェアを伸ばし、現在のBIG3となった。よくあるトップからの分割である兄弟会社2社に対しての新規参入のパターンである。ソフトバンクも3社のシェアを獲得するまでは大規模なキャンペーンが目立つがシェアを獲得してからは上位2社とほぼ同じ戦略パターンだ。
一方、通信会社は、独自のアンテナ設置から、店舗維持費、莫大なマーケティングコストがかかる事業で参入障壁が非常に高い市場だ。現在、楽天の『楽天モバイル』が、第4の通信会社として、名乗りをあげている。さらに300万名対象にプランは1年無料を謳っている。1.2億人の4社シェアで25%となると、約3,000万人だ。現在の300万人1年間無料の10倍のシェア獲得への勝負だ。
実質2,980円で1年間の3万5,760円分が無料としても、人々の心の『スイッチングコスト』はもっと高いようだ。
携帯電話の料金を下げるだけではなく、むしろあの携帯電話の『契約』時のまどろっこしいサインや待たされる時間、ショップにでかけたり、人間のでないサポート電話の通話中などの、電話そのものの通信の契約や本人確認こそ、メスをいれるべきではないだろうか?
携帯電話の契約で待たされる時間の大半は、総務省管轄の電波を利用する際のルールにエンドユーザーまで巻き込んでいるからではないだろうか?
菅義偉内閣官房長官の政策では、単なる『MNPの転出手続き無料化』ではなく、もっと上流での携帯電話の契約そのものを簡素化させる方向で考えてほしいものだ。マイナンバーカードの『預貯金口座のひも付け』以外にも、電話番号紐付けをすれば通信料金が安くなるなど希望者レベルで実施できるプランもありではないだろうか?
菅義偉内閣官房長官、マイナンバー年間維持費の500億円を使いかたもっと検討できるのではないでしょうか?
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September 04, 2020 at 11:53AM
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