[東京 10日 ロイター] - 政府の経済対策に応じて日銀が国債買い入れを再拡大するとの見方が出ているが、市場に期待は広がっていない。市中での国債増発の可能性が低いだけでなく、レポレートの低下や超長期金利低下など思わぬ副作用をもたらす恐れがあるためだ。タイミング的に財政ファンナンスとも受け止められかねない買入増額には日銀も慎重になると市場はみている。
<巨額の前倒債、市中での国債増発懸念は薄い>
政府の経済対策は事業規模が26兆円と膨らんだが、2019年度補正予算に計上される国と地方の財政支出としては4.3兆円と「普通サイズ」。前倒債が積み上がっているため、国債のカレンダーベースの市中発行額に影響はないとの見方が多い。来年度は国債償還増加と前倒債の縮小のために、むしろ減少観測があるほどだ。
モルガン・スタンレーMUFG証券のエクゼクティブディレクター、杉崎弘一氏は、「財務省は前倒債発行により50兆円以上のオーバーファンディングの状態にあり、支出は前倒債で十分カバーできる。また、2016年度に同規模の経済対策が実施された時も、市中発行は増発はされていない」と指摘する。
経済対策に呼応し、日銀が国債買い入れを増額して、政府との一体感を演出するのではないかとの見方もある。ただ、当の円債市場では、国債増発の可能性が低いこともあって、期待感は低い。
アセットマネジメントOneの債券運用グループ、ファンドマネージャーの吉野剛仁氏は「日銀が単独で国債買い入れの増額には踏み切らないとみている。仮に財政プレミアムが乗るような形で金利が上昇した場合に、あくまで財政のサポート役として買い入れを増やすのではないか」と予想する。
<中期債と超長期債の増額は難あり>
日銀による国債買い入れ増額は、現在のマーケットの状況からも、あまり歓迎されない。国債の年限ごとに、それぞれ事情は違うが、足元の金利上昇基調と逆方向のオペは市場を不安定化させかねないためだ。
中短期債は、海外勢の保有比率が高く、レポ市場に出てきにくい。日銀が買い入れを増額すれば、レポレートが低下し、国債を借りてくるショート(空売り)が行いにくくなる。国債金利は下がりやすくなるが、マーケットの流動性は低下する。
17年3月にはレポレートが急低下し、日銀が「売り現先オペ」を行って鎮静化させたことがあった。当時は、日銀が国債を大量に購入しており、そこに海外勢の買いも加わり、レポ市場に出てくる国債が急減。レポレートが急低下してしまった。日銀は、売り現先で、国債を市場に供給、レート上昇を促した。
一方、超長期債の買い入れを増額すれば、せっかく上昇してきた超長期債の利回りが再び低下する可能性が大きい。年金や生保など長期投資家の資産運用を助けようとしてきた、これまでの日銀の姿勢と逆方向の施策となる。将来の減額余地を作るために、今回増額するという選択肢もあるが、本末転倒だろう。
<消去法的には長期債だが>
消去法的に残るのは長期債だ。2018年2月以来となる「残存期間5年超10年以下」対象の買い入れ増があれば、市場へのインパクトは大きくなる。
日銀は消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという、オーバーシュート型コミットメントを掲げているが、日銀のこれまでのオペ減額で、「80兆円」めどは有名無実化している。
国債償還の増加もあり、来年には、日銀の国債保有の増加ペースが前年同月比で約3兆円程度に減速すると、野村証券のシニア金利ストラテジスト、中島武信氏は試算する。オーバーシュート型コミットメントを守るためにも、国債買い入れ増額で「バッファー」を作っておきたいインセンティブはあるかもしれない。
しかし、10年債利回りは足元で上昇してきたとはいえ、いまだマイナス。また2018年2月以来となる「5─10年」の買い入れ増は、長期金利を低下させ、超長期金利も下げてしまう恐れがある。
さらに、このタイミングで、国債買い入れを増額すると、財政ファイナンスとも受け止められかねない。このため、市場では「あるとすれば対外的に明示しないステルス方式になる」(外資系証券エコノミスト)との見方も出ている。
テーパリング(買い入れ減)も、「80兆円」の看板を下ろさずにステルス形式でやってきたのだから、増額もステルスになりそうだというわけだ。ただ、この場合、政府との一体感をアピールするのは難しくなるというデメリットもある。
市場が注目するのは、日銀オペのオファー額。5─10年の日銀オペが予定されているのは、12月は残り、13日、18日、25日。来月の国債買い入れ方針を示す「オペ表」(12月26日発表)への関心も一段と強まりそうだ。
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December 10, 2019 at 07:42AM
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